バーにて。(3)

バーのカウンターに座ると、目のやり場に困る、という人がいた。
そんな気にすることないのに、と答えながら、私としては面白いものを見るような目つきで、その人をみていたかもしれない(笑)。
カウンターに座って酒を注文すると、バーテンダーが調製しはじめる。その一挙手一投足をじっと見るのは、なんだか「チェック」してるみたいで申し訳無い、かといって他に目をやってキョロキョロしてると思われるのもなんだか格好悪い、ということらしい。
本当に遠慮などせず、是非バーテンダーの一挙手一投足に注目してもらいたい。
バーテンダーの技量は、実はそこにこそ現れているといっても過言ではないのだ。
上手なバーテンダーの動作は、流麗で華麗で、簡潔でストレートだ。
レシピを揃え、前準備を施し、調製する。
動作の全てが流れを具え、しかし無駄はない。
派手なアクションを身上にしている人もいないではないが、良く見ると利に適っていることに気づくことができる。
シェイカーの一振りも、そのシェイカーの中でおこっている出来事、氷が砕けていないか、液体が泡立っていないか、冷え具合、混ざり具合、それらの全てを耳と触感と経験によって彼は知っていることを思えば、官能的な印象を受ける。
なりたてのバーテンダーが悩むことの一つに、「シェイクしているときはどこを見ればいいか」という問題がある。カウンターに座る客と、同じようなことバーテンダーも悩んでいる。
バーテンダーによっては、「なるべく注文されたお客様の前で振って、視線はお客様へ」という「熱視線系(笑)」もいれば、「お客様の背後」という「視線はずし系」もいれば、「真横か、シェイカーそのもの」という「無視系」もいる。
客としても無理してバーテンダーをじっと見なくちゃいかん、ということはないが(笑)、シェイクする腕の使い方や位置、シェイカーの冷え具合、音などを見聞きすると、面白いほどバーテンダーの個性が出てくることに気づける。
また、バーテンダー以外にも、バックバー(バーテンダーの背後にある、ボトルを並べている棚の総称)を見る、という手もある。
見たことも無いボトルを見つけたら、遠慮無くバーテンダーに聞き、どういうものか教えてもらう。ボトルでなくても、飾り壜やちょっとした小物が置いてある場合も多い。何かの記念や、酒造・酒販店が置いていったものや、客からもらったようなものまである。その経緯なども面白い話の種になる。
そうそう、ただし。
バーテンダーが他の客の酒をつくっているときは、話しかけないほうが無難だ。それと、たとえ自分の酒をつくっているときでも、シェイクやミキシングをしているときは止めたほうがいい。
うまい酒は、他者とのコミュニケーションによる、ということもあるようだから。

“バーにて。(3)” の続きを読む