VALIS : Vast Active Living Intelligence System

今年最後になるかも、と思いつつ、曙橋のいつもの店へ。
店に入ると、カウンターの中に店主の山崎さん以外に、男性が一人いる。熱心に何かにナイフを立てる作業をしている。
山崎さんが「カウンターが(バーテンダーが)二人になったわけじゃないんですよ」と笑う。そして「これはスペインです。」と言った。まったくもって謎の言葉を発する人だ。そしていつもテンションの度合いが違うので戸惑うのだが、今日のテンションはいつにもまして変だ。
「誰か僕に、スペインとは何か教えてくれないか。」と聞くと爆笑が沸いた。客は僕のほかに一人。
カウンターの中で熱心に作業をしていたのは、この店にチーズやハムなどの輸入品を降ろしている会社の人だそうだ。作業していたのは、スペインのいわゆる「ハモンセラーノ」、それを山崎さんが購入して店に置くので、前準備となる真皮を削ぎ、本場の切り方の見本を作っていたのだ。
いわゆる「ハモンセラーノ」といったが、実際にはハモンセラーノとは言えないもの。だけど、日本に輸入される段階で、特に命名に厳しくない日本なので、ハモンセラーノと名づけられてくるのだと。イベリコ豚の血が入った白豚を使っていることと、前足であることが、「ハモンセラーノ」ではない、という意味だそうだ。ハモンセラーノは、ハム用に改良された白豚の後ろ足で作ったものを言うとスペインの生産者による協会によって規定されている。よって、違うのだ、と。あるいは、イベリコ豚で作ったものは「ハモンイベリコ」というのだが、白豚とイベリコ豚の混血を使っているので、そのどちらでもない、という程度に複雑な話だ(笑)。
ただ、と輸入業者さんは続ける「ただ、このハムは、温度と湿度、風力などの条件を機械的に実現し、強制的に熟成を進める現在の手法とは違い、1200m程度の高地にある専用の「家」の二階部分に適度に分散して配置し、窓を開け放って風通しを加減する、昔の作り方に習って作られたものなんです。」
ありがたい説法を聞くような説得力。一同「ほぉ」と感嘆し、その手さばきに見入る。
その後、サンプルのために業者さんが切った部分を、サービスで食べさせてもらう。激しく美味い。自分でもこんなもん作れればいいのに、と思うが、さすがに生肉をぶら下げておいて、そのまま生ハムになるほど、宅の環境はスペインには似ていないので諦める。普通のハムやベーコンなら作るけどね。
飲んだのは、ジントニックチンザノクーラー(ここにチーズ盛り合わせとバゲットをあわせて食べた。チーズはその日入ったばかりの、エドラダワーで漬け込んだウォッシュタイプ、ギネスのスタウトに漬けたもの、もうひとつなんだか忘れてしまったけど酒に漬け込んだものに、ブリーとブルーの各種。エドラダワーウォッシュとトロトロに溶けているブルーが格別の美味さであった)、セニャーニャのグラッパ、ここで帰ろうと思いフライハイトを頼んだが、隣の客にも捕まってポール・ジロー。相変わらずめちゃくちゃな選択だ。
シェリーの甘さについての考察と、バーに女の子を連れて入ったときに青ざめさせられたバーテンダーの一言についての深い深い、そりゃもう日本海溝より深甚なる考察が行われたが、それはまたいずれ、別のトピックで。
久しぶりに遅くまで飲んでしまい、電車の乗り換えが面倒な気がして、ウチまでは少し遠い駅に着くが、一本でいける電車に乗る。帰る道すがらにあるビルの一階に入っている会社名が激しく気になる。
VALIS
Vast Active Living Information Systems

社長がディックマニアなんだろうか。
我々はヴァリスによって生かされている。そんなことを痛感しながら、帰り道(ヴァリスによって投影されているホログラムにすぎない)を急ぐ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です