バーへ行こう。(2)

北海道最大の歓楽街「ススキノ」のいわゆる中心地にそのバーはある。
ススキノ交差点から、都通りに入ったすぐ、古びたビルの4Fにある。
ちょっとだけ立て付けの悪い大きな自動ドアが開くと、オーセンティックな長いカウンターとその幅一杯のバックバー、奥にはボックス席が見れる。
ふと、微かなデジャヴを感じる。どこか懐かしい、と。
「薄野に山崎在り」と謂われる山崎達郎氏が、長きに渡って守りつづけた不落の城、「バー山崎」である。実に50年になんなんとするその歴史において幾度ものさまざまな危機を乗り越え、もはや揺るぎ様のない城になった。
今は主たる仕事は、チーフを始めとしたバーテンダーたちに任せてはいるが、請われれば自らシェイカーも振る。オリジナルカクテルの数はもはや数えることさえ諦めましたと苦笑いするほどである。
画家を志したこともあり、絵心の慰みで始めた客の横顔を切る切り絵も、すでに二万枚を突破し三万枚へと至ろうとしていた。初めての客なら、切ってもらうのが当然のようなものだ。是非頼んでみてもらいたい。
オリジナル・スタンダードともいうべきカクテルとしては、ウンダーベルグカクテルの傑作「フライハイト」、ドラマのために創作された「ダイヤモンドダスト」、四季に移り変わる札幌をイメージした「初春の札幌」「秋の札幌」など。その他枚挙に暇が無い。
こういったオリジナルと共に山崎氏が育てた弟子=バーテンダーも、また枚挙に暇が無い。弟子が独立するときは、地元に帰るなどのことでないのなら閑忙の手伝いなども考えなるべく近所に場所を探すことを薦めるだけあって、「山崎」からわずか数十メートルの円内に、最初の女性弟子にして今や女性バーテンダーの第一人者中田耀子女史の「ドゥ・エルミタアヂュ」、テクニシャン中河宏昭氏の「バーProof」他、山崎氏を師と仰いだ人の店が何軒もある。
現在のバーテンダーも捨てたものではない。この歴史あるバーにしては若いと思えるかもしれないが、決してそんなことはない。
チーフ根本女史は柔らかいシェイクと的確な仕事が魅力で、ほとんどバーの一切合財を任せられている女性初のチーフバーテンダーである。
相蘇君は軟派な容姿とは裏腹に、力強いシェイク、大胆なレシピを生み出す、ある種の天才と思える。センスが良い、というのであろう。性格は除いて。
そして今なおシェイカーからグラスへ注ぐとぴったり注ぎ切ってしまう健在ぶりの山崎氏。
それぞれの魅力が光り、アットホームでありながらオーセンティック、かっちりとしているようで角が丸い感じがする、そんなバーである。
きっとあなたも「どこか懐かしい」と感じることができると思う。

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バーへ行こう。

大森にそのバーはある。
繁華街からはすこし外れた、SLなどが置いてある公園のすぐそば。
店内はオーセンティックというよりはモダンだが、エキセントリックじゃないところが、落ち着いていて居心地の良さを感じさせる。
居心地の良さは何も店内のつくりだけではなく、女性ばかりのスタッフの細やかな心配りや安心してまかせられる確かなテクニックからも感じられる。
「Tenderly」というこのバーは、現代のバーマンの中では「ドゥ・エルミタアヂュ」の中田耀子氏と双璧を成す、女性バーテンダーの第一人者宮崎優子氏の、念願のオリジナルオーナーバーである。
開店からわずか3年しか経っていないとはいえ、その名は高らかに全国に響き渡っている。
その酒に対する探求心に舌を巻くばかりでありながら、宮崎氏の人当たりの良さは筆舌に尽くしがたい。
東西のバーマンの中でも絶賛を浴びるほどのテクニシャンでありながら、その賛辞に対して不遜になることは決してない。逆に多芸多才であり、客を笑わせ喜ばせることに生きがいを感じてさえいる。時にお笑い芸人の如き扮装をするかと思えば、あっと驚くような魔術さえ見せてくれる。あるいは、客の好みに応じてコーラご飯をそっと出してくれることさえある。
オリジナルカクテルは女性らしい繊細さを、こびへつらうことなく表現した、すがすがしいものが多い。
女性なら、ベイリーズ、コニャック、グランマニエ、生クリームの「ベルベット・タッチ」、コアントロー、クランベリージュース、パッションフルーツリキュールの「サントロペ」などをぜひ飲んでみてもらいたい。
きっと満足のゆくものである、と私は信じてやまない。

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