準備中。

今日買って来た、お道具。上、黄色い逆T字型のは、クリップ。カリカリなんかの袋をとじておくヤツね。その下、オレンジの円形のは、ご飯のお皿。よく見ると、左下の部分にカケがあって、アクセントに。以上の二つはイタリア・ミラノが本拠の「ユナイテッド・ペット」というブランドのもの。ポップさがかわいいでしょ。右のはブラシと爪きり。ドギーマンのもの。

“命の水”を探して(5)

通り雨があがった路地を曲がり、雲の切れ間から青空が覗いているのを見上げると、はっと思い出す記憶がある。
ここではない、遠い昔に駆け抜けた、学校からの帰り道の、垣根のある路地の、あの記憶。同じように通り雨の後で、立ち昇るむっとした湿った熱気と、垣根の緑の匂い。風が頬を撫で、空から夏を運んでくる。
香りが記憶をつれてくる瞬間、私はまったく限りなく解放される。
“命の水”の香りの話。
高度に技術化された酒造方式によって作られている酒の多くは、その特色として「香り」を重視される。
清酒やワイン、ウィスキーなどはその最たるものだ。
ワイン(清酒もそうだが)などでは、ソムリエたるワインの専門家が、考えられうる限りの語彙をもって、ワインの香りと味を表現する。
曰く、ベリーの熟しすぎた香り、ナッツのこげた匂い、土の渋味やスミレの葉、チョコレート、プラム、黒糖、鉄や銅・・・。清酒では、これを「甘酸辛苦渋」と表現する。
各ウィスキー蒸留所、またブレンデッドウィスキーの会社などには、驚くような能力を持ったテイスターやブレンダーがいる。
テイスティングのことを、スコットランドの蒸留所やそれに関わる人々は「ノージング」という。鼻を使うからだ。舌で感じるものではなく、鼻で感じるもののほうが大事だということなのだろうか。ウィスキーを飲んで確かめるのではなく、舌の上に置き、適度に温度を上げ、空気と混ぜ合わせることで、その芳香を鼻腔にあげるのだ。
彼らは、ノージングする原酒を、樽からそのまま取出して使うということはない。
前章でも書いたが、その場合はかならず割水される。アルコール度数20%前後のほうが、ウィスキーに潜む香りが開きやすい、と考えているからだ。
仕込みに使われたのと同じ水で、原酒を半々に割り、よく混ぜ合わせ、グラスを鼻に当てる。
香り、匂い、それだけではっきりと彼らは感じ取る。
仕込み水、麦を炙り、樽の内側を焦がすのに使われたピートの香りや、樽のオーク、ポットスチルの銅の匂いなど当然のこととして、蒸留所の近くにある湿地帯に咲く花々の花粉の香り、仕込み水が通ってくる川や源流にある群生の高山植物の香り・・・。
出所不明な噂話だが、こんな逸話がある。
ブレンデッドウィスキーをブレンドするために、あるブレンダーはノージングをしていると、どうしても気になる「花の香り」にであった。
なんど確かめても、その香りは記憶になく、またいつも精度のよいきちんとした酒を納品してくれる付き合いの長い蒸留所の酒であったため、非常に困惑した。
その原酒を納品した蒸留所の責任者に電話をかけて、事態の説明を求めた。責任者にしてみれば、いつもと変わらぬように作り、自分たちで確かめたときも、毎年つくられている酒となんら変わりのないものができたと自負して出荷したものだったから、そんなはずはない、と断言した。
しかし、納得できないブレンダーは、蒸留所の連中に命じて、蒸留所で使っている水の源流までをさかのぼって、何か特別なことがないか調べさせた。
疑っていた調査員たちは、思わぬものに出くわすことになる。源流の山深い場所に、小さな花の群生にであったのだ。その花はイングランド島にだけあった高山植物で、しかも絶滅したといわれていた花だった。
私たち如き(笑)、凡人の鼻にも、わかることは沢山ある。
スコッチシングルモルトウィスキーは、どんなものであっても、確実になんらかの特徴をもっている。一つとして、同じ物はない。
香りも味も、である。
潮の香り、蜂蜜の香り、花のような香り、果物の香り、焦げ臭かったり、あまやかだったり、いろいろな香りが、渾然一体となってあなたの鼻腔をくすぐるだろう。
1杯だけではわからないはずだ。いろいろな蒸留所のモルトウィスキーを試しほしい。
いつか、自分の記憶にある香りと合致する、思いも寄らない香りに出会えるかもしれない。

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