バーにて。(2)

「バーなんかに行って、バーテンダーさんとかと何の話してんの?」
と聞かれたことがある。
バー「なんか」にいって、話すことはそれこそ星の数ほどネタがある。
酒の話、スポーツの話、仕事の話、事件、事故、怪談、猥談、まさにエトセトラだ。
以前、友人の結婚披露宴で秋田県横手市にいったことがある。用意されていた二次会が終わり、三次会をどうしようと横手駅前から繁華街(らしき)あたりを徘徊していたら、ちょっとまともそうなバーが1軒。とはいえ、八人ほどの大人数でバーに入るのもなんだと思い、特に仲のよい友達と二人で抜け出し、そのバーへ入った。
カウンターから見たところ、かなりまともなバーだったので、安心して注文を済ませ、1杯目をすすっていた頃、友達が私の肩を叩いた。
「ちょっと、あれ・・・」
友達の指差す背後を見ると、数百体はあろうかというフィギュアの山・・・。よくよく見ればオタク垂涎の品まである。
唖然として友達を見ると、友達の目が輝いている。そうだ、忘れていた。彼女は紛れもなくマニアであったのだ。
いささかの失敗の念を感じつつ、カウンターの中へ視線を戻すと、マスターバーテンダーらしき人が、同じように輝いた目で我々を見ている。
「も・・・もしかして、あれはマスターのご趣味ですか?」
私がそう聞くと、マスターは息せき切ったように話し始めた。
そこから先は、友達とマスターのおたく談義が季節外れの百花繚乱の如き咲き乱れが始まった。延々4時間ノンストップであった。
(ちなみにその後、秋田のトップバーテンダー黒坂氏の秘蔵っ子菅原女史に聞いたところ、このマスターとはよく知った仲らしく、店から電話をつながれてしまい、再び横手に来るよう(当然友達も一緒に)要請された後日談もある)
まさかそんなオタク話が咲き乱れるのは、後にも先にもあの店以外あるまい、と思っていたのも束の間、先日、いきつけていた大森のバーでまたしてもそれは始まった。
私と常連ばかり5人ほど、女性ばかりのバーテンダー5人で、2時間半、漫画から始まり、コンピュータ、映画に関するありとあらゆる枝葉末節を網羅しつつ、オタク話に花が咲いた。
普段、真面目な顔をして、この酒はどうのとかあの酒はここがいいだのと語っている連中が、目を輝かせて「闇のパープルアイがどうの」「パタリロがどうの」「エロイカがどうの」やら「LC630のメモリサイズがあーで」「アップルIIはCPUがこーで」「mkLinuxのブートがどーで」やら「リーサルウェポン2のエンディングがあーだ」「シックスセンスのDVD版があーだ」と止めど無い。
薄ら寒いものを感じつつ、逃げるように帰ったものである。
とどのつまり、バーでバーテンダーや隣の客と話す内容など、制限もなにもあったもんじゃない、ということではある。
(決して、それらの話題の中心に私がいた、というワケではないので、誤解なきよう)

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