懐かしいなぁ。
「小さな決心」とか、何度繰り返して聞いたことか。
とくにこれといった理由はありません
カクテルの王様はマティーニで、マティーニはドライであればあるほどよく、ジンはブードルス、ベルモットはノイリープラットで、ベルモットはリンスのみ。氷が溶けるような怠惰なステアリングをするような店では二度と飲まないし、グラスは冷えていなければならない。レモンピールはしなくてもいいが、するんだったら果皮汁は入れずグラスを持ち上げたときに香る程度でいい。オリーブはよくソーダで洗ってあり、フレッシュで歯ごたえの良いものでなければならない。できれば別に皿でつけてくれるといいのだが、それは仕方の無いときもあるのでうるさくは言わない。注がれたら三口で飲むが、入れ立て、馴染み、そして温度があがりバランスが崩れる寸前の3度のタイミングを守らなければならず、そのためには店の気温や湿度もよく考えなければならない。
などと、もうこだわるのはやめにした。個人的なことだから、誰かに押し付けはしないが。
そう思えるのようになったのは、ミウラ君が私とともに30代になった頃のことだ。ミウラ君は下北沢のとあるバーにいたバーテンダーで、容貌は限りなくパンクだが、中身は恐ろしく気のいいお兄ちゃんだった。
イタリアンのレストランで修行をしてきた彼は、バーテンダーよりはシェフの道が合っていると自分で思っており、その自信の通り、作るパスタとかピザとかはこれまで私が知る限り、最高の味だった。こんな美味いものが、まさか下北沢のはずれにある、トタン板で囲まれたぼろいバーで食べられるとは、そう感じずにいられなかった。
彼はイタリアンの修行をする前、高円寺の伝説的なバーでバーテンダーをしていた。そこではまさしくバーテンダーであり、客が注文にこだわりを見せると、それを決して忘れず、次の注文には必ずその通り再現してみせることを、自分の中のこだわりにしていたようだった。
下北沢のバーでは、一切カクテルグラスを置かなかった。あるのは華奢で小さめのオールドファッショングラスと、タンブラーのみ。
ビールはギネスとペールエール、キリンの瓶ビール。カクテルはロング/ビルドばかりで、請われればあるもので何か適当に作る。しかし、ショートグラスはないから、オールドファッショングラスにビルドする。
ギムレットを頼むと「○○○さんだけですよ、ここでギムレットなんて頼むのは」と、例のごとく人懐っこい笑顔で笑って、グラスを出す。もちろんオールドファッションだ。「オールドファッションでもいいですよね?」と一応の確認はする。だがショートグラスにしてくれと頼みたくても、ここにはないのだ、ショートグラスが。
苦笑いしながら頷くと「タンカレーでしたよね、いつも。」と言った。何年も昔のことなのに、忘れていないところもある。
小さいストロークのシェイクで手早く作った彼のスタイルのギムレットは、「これはジンライムじゃないなぁ」と揶揄してみせても敵わないほど、美味いものだった。
ミウラ君が東京を離れ、違う街でやりたいと思っているんだと告白してくれたのはずいぶんと冷え込んだ寒い冬の日で、ホットラムカウを飲みながらのことだった。
札幌、大阪、京都、神戸、いくつかの街を休みの間に回り、自分の新しい生活にあった場所を探したという。彼は道ならぬ恋をして、そして奪い去ろうとしていたのだ。
もともと東京には未練も無いし、そういった街のほうが自分には合っているみたいだ、と。
東京を離れ、神戸に行くことに決めたという話を聞いたのは4月頃。お互いに31歳になり、彼は彼なりの道を決めたということなのだろう。5月には旅立つという。
最後にマティーニを作ってくれないかと頼むと、彼はまた笑った。「ずいぶん久しぶりなんですけど、マティーニを作るのは」と言いながら。
彼は3:1のオールドスタイルでドライではないマティーニを、いつものようにオールドファッショングラスにビルドした。氷が入っているので、オリーブはガーキンスなどのピクルスといっしょに小皿に並べられて添えられた。
私はそのマティーニを飲み干してから先、これまで一滴のマティーニも口にしていない。口にする理由がなくなったからだ。なぜドライにこだわるか、なぜマティーニそのものにこだわるか、疑問の全てが自分の中で消化されたし、あるいはマティーニというものが僕の中で昇華されてしまったのかもしれない。
誰もがひとつの言葉でしゃべるのではない。誰かには誰かの言葉があり、私の言葉ではないのと同じように、私の中のマティーニはそこで終わった。それだけのことだ。
ミウラ君が旅立つ前日(しかも店の送別会もその日)、店には立錐の余地も無いほど人が集まった。文字通り、立ちっぱなしでぎゅう詰めになりながら、わいわいと騒いだ。最後に握手をしながら、ミウラ君は半べそをかき(笑)、そして「これまでありがとうございました」と言った。礼を言わなければならなかったのは私のほうだったが、私は彼が今言いたいことを言わせるに任せた。
もう何年も昔のことだ。ミウラ君が今なにをしているのかはしらないが、私は今でもマティーニを飲まない。
またいつかどこかで出会うことが出来たのなら、今度は私の方から礼をしようと思う。
[ サンダーバード ]
実写版サンダーバード、ついに前売り券の発売を開始。
しかも・・・毎月変わる特典フィギュア付。ファンなら毎月買っちゃうわけですね?(笑)7ヶ月続くそうですから、最終的には7枚のチケット・・・。
誰かそんな羽目になったら、チケット引き取りますよ(笑)200円くらいで(笑)。
しかし、映画的には期待。
ジョナサン・フレイクス監督というと、僕的にはスタートレックなわけだけど、これまでの監督業としてもスタートレックがらみだったし、監督そのものの評価として必ずしもかんばしいとは言えなかったから。今度は本気でがんばってほしいです、ハイ。
[ 72万円のブランデー、アサヒビールが限定十本発売 ]
アサヒビールがコニャックのレミーマルタン・ルイ13世(700ml)に1.3カラットのダイヤモンドをあしらったスペシャルボトルを720,000円で10本限定で売り出すというニュース。ダイヤは琥珀色で、栓の真ん中に配されている。また0.1カラットのダイヤ5個をあしらった50mlの小瓶を50本限定140,000円で売り出す。
僕個人としてはこういうものにはまったく興味がない(酒の質とは関係ないからねぇ・・・)のですが、元になっているノーマルな瓶、700ml なら160,000(輸入物で大体90,000)円、50ml なら25,000円というあたりのもの。ダイヤの値段以外にも少々つみあがっているものがありそうだけど(笑)。
話題づくり、需要の掘り起こし、などという言葉が並ぶが、本当にそういうものなのだろうか?という疑問もわく。
飛ぶように、というわけでもないが、消費の現場にいるものとしては、今は樽買い業者によるボトリングもののウイスキー、特にシングルモルトが中心で、ブランデーの高級品はいかにも旗色が悪い。
日本の酒造メーカーが、スコットランドの蒸留所を買い取るというニュースも、いまいち首を傾げなければならない部分は多い。正規品自体は微妙な目線で見られている場合もある。曰く、某社に買い取られてから味が落ちた、薄くなった、イメージが悪い等。
日本のなかでの反応でしかないかもしれないが、日本のメーカーにしてみれば、重要な市場の反応だと思うのだが。
まあ、なにはともあれ、10本、全部売れるといいですね。売れるとは思いますけど。飾り物として。
あ、ルイ13世はすごい酒ですよ。
それこそ、レミーの100年ものの樽から汲み出したカスクトレンクスだったら、700mlで500,000でも売れるだろうし、僕も欲しいかもな・・・(笑)。