バーへ行こう。

大森にそのバーはある。
繁華街からはすこし外れた、SLなどが置いてある公園のすぐそば。
店内はオーセンティックというよりはモダンだが、エキセントリックじゃないところが、落ち着いていて居心地の良さを感じさせる。
居心地の良さは何も店内のつくりだけではなく、女性ばかりのスタッフの細やかな心配りや安心してまかせられる確かなテクニックからも感じられる。
「Tenderly」というこのバーは、現代のバーマンの中では「ドゥ・エルミタアヂュ」の中田耀子氏と双璧を成す、女性バーテンダーの第一人者宮崎優子氏の、念願のオリジナルオーナーバーである。
開店からわずか3年しか経っていないとはいえ、その名は高らかに全国に響き渡っている。
その酒に対する探求心に舌を巻くばかりでありながら、宮崎氏の人当たりの良さは筆舌に尽くしがたい。
東西のバーマンの中でも絶賛を浴びるほどのテクニシャンでありながら、その賛辞に対して不遜になることは決してない。逆に多芸多才であり、客を笑わせ喜ばせることに生きがいを感じてさえいる。時にお笑い芸人の如き扮装をするかと思えば、あっと驚くような魔術さえ見せてくれる。あるいは、客の好みに応じてコーラご飯をそっと出してくれることさえある。
オリジナルカクテルは女性らしい繊細さを、こびへつらうことなく表現した、すがすがしいものが多い。
女性なら、ベイリーズ、コニャック、グランマニエ、生クリームの「ベルベット・タッチ」、コアントロー、クランベリージュース、パッションフルーツリキュールの「サントロペ」などをぜひ飲んでみてもらいたい。
きっと満足のゆくものである、と私は信じてやまない。

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バーにて。

よく「バーなんかに行っても、何を頼んで良いかわからない」と言われる。
「バーなんか」に入ったことのない人にとっては至極当然の悩みらしく、ほとんど会う人毎に言われるといっても過言ではないくらいだ。
そんな時、「バーテンダーにそうはっきりと言えばいいんです」と答えることにしている。これは僕に限ったことではなく、バーで暮らしている人の多くは、そう答えるようだ。
バーテンダーに、強い/弱い(アルコールの割合)、甘い/辛い、色、量(三角形の足の長いグラスがショート、ゴブレットなどの長い円筒のグラスがロング、あるいはトールという。当然前者が少量、後者が多めです)を伝えれば、すべて事足りる。
バーテンダーはカクテルを中心にしたお酒全般の「ソムリエ」だ。
食前か、食後か。顔色、体格。見た目での落ち着き具合や酔い具合など、客の様子を見て、それに合う酒を用意できる。(できない人もいるだろうけど:)
そして、作ってもらったカクテルの名を憶え(別にメモしたっていい)、次に来たときにはそれを頼めばいいのだ。
実はバーテンダーの多くはそれを喜びにしている。
色ひとつとってみても、その人の好みの色がわかれば、それを元に次のカクテルも考えやすい。客との会話のきっかけにもなる・・・。
肩肘張って気取って飲むのも面白いけど、素直に聞けばバーテンダーという人たちは喜んで教えてくれる人たちばかりだ。きっと楽しませてくれるに違いない。
どうだろう?たまにはバーで一杯。

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