The This One’s from the Heart

[ Amazon:ジェームス・ダーレン The This One’s from the Heart ]
スカイパーフェクTVのスーパーチャンネル(360ch)や、フジテレビの深夜に放送されているスタートレック・ディープスペースナイン(Star Trek : Deep Space Nine)。
連邦宙域の外れにある第9深宇宙基地=ディープスペースナインを舞台に、虐げられた人々、虐げた者達、交易に集まる人や敵意ある人や宗教者との行き交いの中から、やがて全宙域を巻き込んだ大戦争へと突き進んでいくさまを、シリアスに時に娯楽を交えて描写する、スタートレックシリーズの中でも異色とも言える作品だ。
その次第に戦争へと傾倒していく世界の、薄暗い重い空気の中にあって、娯楽施設「ホログラム・スィート」に現れる特殊なプログラム「ヴィック・フォンテイン」が、痛快で最高にかっこいい。
ホログラムは読んで字のごとく、投射された光子と重力制御によって発生したヴァーチャルな映像の組み合わせ。触れたりすることもできるが、コンピュータにより安全であるように制御されている。
通常、ホログラムとして投射されている映像(の人間)は自らをホログラムと認識することはできないように「プログラミングされて」いるが、中にはそれを通り越してしまうプログラムも存在している。古く(といっても我々から見れば遠い未来)には、新スタートレック(Star Trek : The Next Generations)の第二シーズンに登場した「モリアーティ教授」の例があるが、「ヴィック・フォンテイン」もその一人(というか二人目)。
「教授」とは違い「ヴィック」は自分がホログラムであり、虚しい存在であることに理解をもっている。そのせつない生い立ちについては結局語られなかったが、劇中出演者以外の我々視聴者にさえ愛されている。彼の軽妙でウィットに富んだ会話と、物事を見通している賢者のような瞳、そしてシナトラを彷彿とさせる少しだけワイルドで、少しだけ甘い歌声。
彼の登場する舞台はいつも、50年代のラスベガスにあったようなジャズバーだ。「ヴィック」はタキシードで、バンドをバックに歌いだす。客たちはめいめいに、テーブルやカウンターでその歌声を聞く。幸せな気持ちになったり、ふふふと微笑んでみたり、そしてほろりと涙を流したりする。
そうすると「ヴィック」が言うんだ。マイクを置いて。
「イヨォ、ミスター。どうしたんだい、すっかりご無沙汰だったじゃないか。何を飲んでるんだい?ウイスキー?おいおい、そんな湿気たもん飲んでないで、ぱぁっと楽しくいこうじゃないか。オイ!バーテンダー!シャンパンだ!シャンパンを開けてくれ!さあ、ほら、そんな顔してないで、ほらグラスを取れよ、ミスター!」
と、そんな「ヴィック・フォンテイン」を演じたジェームス・ダーレンの、劇中で歌った歌を集めて再録した「The This One’s from the Heart」。古き佳きラスベガスの香りが、光子と重力制御装置によって投射された不思議な一品。


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