神に許された甘露

ブランデー、特にフレンチブランデーの頽廃ぶりにはもはや目も当てれないというのが個人的な意見なのだが、相変わらず良いものは良い。驚くべきことかもしれない。
「ポール・ジロー」などと聞くと、やっぱり日本人なれば「飛びます」くらい一言つぶやきたくもなるものだろうが、そこはぐっと我慢をして。
ポール・ジローは世界で最も純粋にして、唯一の本当のコニャックたりえるものだ。レミー・マルタン、カミュ、ヘネシーがどうしたというのだ。ポール・ジローがあればそれでいいではないか。
(あ、いや、クルヴォアジェとジャン・フィユーとハインはあってくれないと困る・・・)
兎に角!ポール・ジローのすばらしさは、糖もカラメルの一滴も添加せず、ただグラン・シャンパーニュの葡萄を惜しげもなく絞り、醗酵させ蒸留し、樽詰めして熟成させただけだという点だ。瓶詰め時にアルコール度数を合わせるために加えられる水以外、葡萄以外の材料を一切使わない。
1968年は当代のポール・ジロー氏が先代の跡を継ぐと心に決めた年で、非常に雨の多い年でボルドーワインではオフ・ビンテージだが、そう「だが」とポール・ジロー氏は言う。
「だがコニャックでは非常に香り豊かで良いものができた。」
その言葉通り、840本だけボトリングされたポール・ジロー・キュベ・スペシャル1968ときたら!!!
葡萄の鮮烈な甘味を残しながら、切れ上がるような酸味がそれを追いかけるように舌から鼻腔へと抜け、滑らかにして柔らかい下触りはまるで、薔薇の唇のように官能的。残り香は羽毛の心地。その引き際はまるで、美しく可愛い女に別れを告げるかのようだ。
これはまさに、神に許された甘露。
久しぶりに、この時代に生きていてよかったと思う、本物の酒だった。
そんなこんなで、ポール・ジローさんに僕はついていきます。

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