月明かりの下。

[ ジョージア・ムーン ]
バーボンというのは、アメリカはケンタッキー州(実は一部はルイジアナ州)で作られた、主原料にコーンを51%以上80%未満(その他はライ麦、大麦)使って醸造された原酒を、連続蒸留器でアルコール度数80度以内で蒸留し、これを内側を焦がしたホワイトオークの新樽で2年以上貯蔵したものを言う。
この規定のうちのどれが欠けても、それはもうバーボンではなく、ストレート・ウイスキーとしか呼ばれないものになる。
コーンの割合が80%を超えるとコーン・ウイスキーと呼ばれるが、コーン・ウイスキーにはそれ以外の規定はない。
だからといって、というか、だからって何もというか、内側を焦がさない新樽に30日入れただけ(それは貯蔵とはいわないだろう)のコーン・ウイスキーがある。
それがジョージア・ムーンだ。こちらのほうが説明としてはいいかも。
そんな乱暴なウイスキーがあるもんなんだなぁ、という感慨は別にしても、その名前を付けたバーがある。
JR中野駅から程近い、路地をちょっと入ったところに、何気なくトンと置かれた看板だけがこの店がBAR GEORGIA MOONだと告げている。
地下へと通じる階段のための扉をあけると、階下・・・というか地下からざわめく人々の声と、タバコのにおいが湧き上がってくる。
階段を下りてフロアに立つと、ふと階段を振り返りたくなる。階段に座っているほうが広々としているような気がする。それほどにこの店は天井が低い。
同じくらいの面積の店がないわけじゃない。でもまあ、現代的なバーというものの基準(なんてものがあるとは思えない。平均、とか経験値、という意味で。)からすると、少し狭い。
天井が低くて少し背の高そうなバーテンダーは、頭が天井に着いているんじゃなかろうか、とさえ思える。実際にはその隙間は、20cmくらいはありそうだ。・・・なんだかそれがまるで「less than 30 days old」と書いてあるGEORGIA MOONのラベルのような気がする。30日と20cm。
バックバーは日曜大工で作ったような「棚」で、なんだか頼りなく、ようやくボトルたちを抱えているかのようだ。そのかわりといっちゃなんだけどといわんばかりに、カウンターの上とスツールの後ろ、つまり客である我々の後ろに棚が設けられていて、狭い店内をさらに狭く使っている。ある意味では我々の後ろにバックバーがあるかのようだ。言葉としては正しいかもしれないが。
多少若めで、バックバーの棚と同じように少し頼りない感じのバーテンダーだが、カクテルをつくる手さばきはしっかりしており、狭い店内をうまくやりくりして(笑)いる。フルーツは良いものを揃えているので、フレッシュジュースのカクテルはお勧め。ボトルはとにかくどこになにがあるか判断するのは難しく、手近にある瓶を眺めてはそれをもらったり、あるいはそれを元に思い出した酒があるか聞いてみるといい。
タバコを吸う客がいると(というか大概いる)狭い店内はどんどんタバコの煙で満たされてしまうので、タバコが苦手な人にはお勧めしない(というか、日本にあるバーで禁煙のところなんてそうそうはない)が、穴倉に篭って酒を飲むかのような雰囲気は他では味わえそうにない。
禁酒法厳しき折のスピークイージー(それも労働者階級が疲れを癒すためにこそこそと集まったような)とは、こんな雰囲気だったかもしれない。


[ DoblogのときのEntry ]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です