マンハッタン・続々

ある寒い、雪がざんざか降っている札幌の、いきつけていたバーでマンハッタンを飲みながら、その件の母の話をしていたときだ。
隣に座った恰幅のいい中年男性が、いたくこの話を気に入ってくれた。そんなお母さんと、お母さんに付き合って飲んでいる私をほめてくれるのだ。いや、ほめるっていったって、こちとらただの酒飲み親子。てやんでぇべらぼうめといいたいところでもあったのだけど、ぐっと飲み込んでとりあえず母の名誉のために礼を言った。
しかし、その男性はそれでは気がすまなかったらしい。この日を最後に札幌を発ち、田舎に帰省すると私が言うと、男性はとにかく持っていたバッグの中に入っているいろいろなものを、私に持たせようとする。母への土産だと。
羊羹、ミカン、紫檀の箸、小熊の一刀彫の置物や、読みかけの時代小説、などなど。最後には店のコースターまで。
時代小説に至ってはもはや何のためなのかもよくわからないし、丁重にお断りし、羊羹をひとつ(小さなパッケージのだったので)と名刺をいただくだけにした。
そして男性は朗らかに笑いながら、店を後にした。
店のバーテンダー氏に聞くと、初めてのお客さんだといい、なんだか勢いはすごくよい人だったねぇ、などと笑いあった。名刺をひっくり返してみたら、ちょっと名の知れた製菓会社の営業部長の肩書きだった。彼がここで何をしており、まったく関係のない羊羹を人に押し付け、そしてどこへ去っていったのかはしらない。
次の日、田舎の実家に到着するとすぐ、母に羊羹を渡した。ことの顛末を母に話したが、なんだかわかったようなわからないような、複雑な顔をしていた。


[ DoblogのときのEntry ]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です