マンハッタン

「いつだってねぇ、恋は切ないもんなんですよー。」
宮島君はそういってカウンターに突っ伏した。
バーで寝るのはもってのほかだと思っているが、まあ仕方のないときもある。バーテンダーも目配せで、放って置いてくれといっている。
逆側の端では恋人達が、肩を寄せ合って囁きあっている。女の方は時折笑いをこらえるように口元に手をやる。グラスがかいた汗は、すっかりコースターに吸い込まれていた。
バーテンダーはオーダーのないところを見計らって、たまっていた洗物を片付けている。
私はぼんやりとつぶやく。
「切ない、ねぇ。」
視線を感じてバーテンダーを見ると、洗物の手を止め、訳知り顔に頷いていた。
「いいから、仕事してなさい。」
私はそう突っ込んでから、自分のグラスに手を伸ばした。
切ない、なんて、いつものことじゃないか。
マンハッタンが苦く感じた。


[ DoblogのときのEntry ]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です